2013年10月26日土曜日

HP の 3Dプリンター参入表明と、3Dプリンターのこれから

バンコクで 10月22 - 24日にかけて開催された IT 関連国際カンファレンスにおいて、HP の CEO、Meg Whitman 氏は、2014年半ばから 3Dプリンター市場に本格参入することを明らかにした。同社は 2010年から 2年間、OEM契約を結んだ Stratasys製 3Dプリンターを販売していた。

「弊社は 3Dプリンティング テクノロジーに胸踊らせている。HP Labs は 3Dプリントに注目している」と Whitman 氏は語った。

ただし、3Dプリントの現状には問題があるとも指摘する。「ボトル状のオブジェクトを製作するのに 8 時間から 10 時間もかかる。たしかにこれはこれでおもしろい。でもこれでは氷が溶けていくのをひたすら眺めているようなものだ」。製造コストダウンも今後の課題だという。「3Dプリンティングはまだ揺籃期。これはビッグチャンスでもあり、われわれは皆このチャンスに夢中だ。2014年半ばにはなんらかの形にして披露したい」。

HP の 3Dプリンター市場本格参入が意味するのは、3Dプリンターが一部のギークや工業デザインといった限られた領域から、一気にメインストリーム化するということかもしれない。HP という業界最大手が参入することで、巨大なビジネスチャンスをものにしようと Canon、Epson、Xerox といった競合他社も続々と本格参入し、開発競争に一段と拍車がかかるかもしれない。

技術革新の歴史を見ればそれは明らかだ。競争がさらなる技術革新を促し、両者の進行によって価格は下がり、価格が下がればさらなる顧客層を獲得し、幅広い分野で普及が進む。

かつてのインクジェットプリンターがそうだ。90年代初め、登場したてのころはひじょうに高価な割には、プリントアウト結果は解像度わずか 300dpi に過ぎなかった。インクも耐水ではなく、インク滲みもひどかった。

それから 20年ほどが経過した今、インク配合やプリンターヘッドなどが格段と進化し、たとえばインクジェットプリンターで写真用紙に画像を印刷した場合、ちょっと見ただけではショップでプリントしてもらったものと見分けがつかないほど印刷品質は向上している。

ここで懸念がある。もし 3Dプリンティングがかつてのインクジェット機と同様の道をたどるとすれば、工業生産や販売に関する古くからの概念を根本から覆すことになりかねない。ここで問題になるのが、海賊版の氾濫だ。

たとえばディナーセットが欲しいと思えば、現時点ではオンラインショップを覗くか現実の店舗まで足を運び、品定めしてから購入する。ところが普及タイプの 3Dプリンターでたいていのものはまかなえるとなると、人々は Web上にあるディナーセットの 3Dモデルをチェックし、色や質感を選んでから決済し、ダウンロード購入するようになるだろう。

その規模は 2Dプリンターの比ではない。生産設備も店も倉庫も必要ないのだから。海賊版作者たちの目にとまるのも必然と言える。彼らはすでに physible と呼ばれるダウンロード可能な 3Dモデルを公然と配布している。

現在の3Dプリンターの性能には限界がある。あまりに大きな物体は工作できない、素材も低価格モデルでは ABS などのプラスチックに限定される。とはいえ、3Dプリントアウト可能な素材の幅は広がりつつある。産業用機種の場合、今では金属、ゴム、セラミックなどの素材からも工作可能だ。素材以外での最大の課題は、やはりコストだろう。

そして 3Dプリンターが進化するにつれ、あらゆるものが偽造可能になるかもしれない、という問題が表面化すると思われる。3Dプリンティング可能な物なら、正式なダウンロード手続きを経て購入するよりは自前で作ったほうが手っ取り早く、金もかからないからだ。