2013年11月4日月曜日

3Dプリントは大きなビジネスになるか

3Dプリントのイメージには問題があるように思われる。リビングにあるデスクトップ PC につないでちょっとした小物を作るといった、ホビイスト向けの道楽のように見られたりするからだ。だが、新しい発想を実現させる手段として 3Dプリンティング テクノロジー導入を検討する企業の数は増加し続けているのも事実だ。

3Dプリントは正式には「積層造形法」と呼び、産業界ではこちらの呼称が定着している。家庭用でも業務用でも、3Dプリントの原理は同じだ ―― 何もないところから材料を一層一層、薄いレイヤー状に積み重ねて造形する手法だ。従来の「減法式の」成形法に比べると切削、研磨といった工程がないため材料も無駄にならない。そして この「積層造形法」、つまり 3Dプリント最大の利点は、「製品を速く、自前で製作でき、1回限りの生産にも対応できる」ことにある。

ボーイングは 1997年以来、航空機製造における「積層造形」の研究開発を続けており、エアダクトや配線カバーといった小型部品はすでに「積層造形法」で製造し、また金属加工可能な積層造型機でさまざまな試作品も製作している同社によると今後は構造材などの大型部材も積層造形で組み立てることを目指している。


ボーイングと並んで NASA も、長年に渡ってこの 3Dプリンティング テクノロジー活用法を探ってきた。ジェット推進研究所( JPL )ではすぐにでも搭載可能な新コンセプトによる部材の試験用として、3Dプリンターで部品を試作している。同研究所ではMakerBot や 3D Systems などの
コンシューマー向け機種も含め、10数台の 3Dプリンターを所有しており、研究者のブレインストーミング用に活用している。今のところ結果は上々で、たとえば今夏、Webカム スタンドとして作った小物の回転機構から、開発中の新宇宙船用パラシュート展開機構への応用も生まれている。「これはまさしく ' アハ ' 体験の瞬間だった」と、同研究所 CTO の Tom Soderstrom 氏は言う。

同氏によれば、いずれはすべての宇宙探査船を 3Dプリントで「プリントアウト」したいという。「宇宙船は無人で、小型化され、大判美術本くらいのフラットパネル状にまで小さくなるだろう。すべての宇宙船がボイジャーのように見える必要はない」。


また
Soderstrom 氏は、現状ではコンシューマー向け 3Dプリンターは開発途上にあり、使用機種によっては完成品の差が大きく、3Dデザインを出力するソフトウェアも扱いにくいと指摘する。3Dプリンター用デザインソフトはプリンターベンダーが Autodesk のような 3D CAD として、あるいは Siemens のような製造大手が提供する場合もある。それでも同氏は企業の CIO に対して 3Dプリンターへの投資を推奨し、また、どの機種が自分たちの事業にとって最適なのか、助言を与える「IT コンシェルジュ」として登用可能な人材を見つけるべきだともいう。

「高価格の最高機種は必要ないが、廉価タイプでは高品質な部品の製造は難しい。そんな時に IT コンシェルジュは役に立つだろう」。コンシェルジュには、単一製品において多種多様な素材をいかに扱うかといった知識が必要だろうと、と同氏は述べている。

また物流大手 UPS は、3Dプリンターを購入するゆとりのないスタートアップや小規模事業者向けに、営業拠点店頭で完成品を受け取れるサービスをすでに試験運用している。UPS では現在米国内の6営業所に 3Dプリンターを設置しており、料金は造形する製品デザインの複雑さによってさまざまだが 10 ~ 500米ドル。利用者は、まず STL 形式の3Dデータを持ち込み、造形可能かテストした上で見積もりを出してもらう。同社は1年間の試験運用の結果を見て、3Dプリンター設置拠点を増やすかどうか決めるとしている。


オンライン 3Dプリントサービスとしては、すでに Shapeways Quickparts がある。こちらは利用者からアップロードされたデータを受け取り、それを自社設備でプリントアウトして完成品を宅配する。

他のオンライン型サービスとして、3D Hubs がある。これはいわば不動産マーケットプレイス Airbnb の 3Dプリンター版だ。3Dプリンターを持っていないユーザーが、プリンターを所有する近隣の他ユーザーにプリントしてもらうことを支援するサービスだ。

一部製造業では、3Dプリントはすでにきわめて重要な工程となっているが、中小企業において3Dプリント導入の最大の足かせとなっているのは、Gartner のさる産業アナリストの発言を引けば、「3Dプリント活用のしかるべきタイミングについて、認識じたいが足りない」ことにあるのかもしれない。3Dプリントはなにもボーイング並みの大企業である必要はない。高度にカスタマイズされたデザインの試作品の少量製作に向く 3Dプリントは、小規模事業者にとっても有益な選択肢の一つとなる。

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