2014年3月30日日曜日

患者の生命を救う3Dプリント技術

生後 18か月になる Garrett Peterson ちゃんにとっては、呼吸することじたいが生存を懸けた戦いだ。

Garrett ちゃんは、気管周囲の筋肉が先天的奇形のために呼吸困難になる先天性気管軟化症という難病を抱えて生まれた。生きていくためには人工呼吸器が欠かせないが、ほんの少し衝撃を与えただけで、たちまち呼吸不全に陥る恐れがある。

先天性気管軟化症は、症状によっては理学療法や外科療法で治療可能な場合もあるが、ミシガン大学の医師チームはこの先天異常の治療に、3Dプリント技術の応用を検討している。

今や自動車部品、玩具、ファッションアクセサリーに至るまで、3Dプリントが多種多様な造形物の製作に使用されているが、同大学の医師たちは、3Dプリント技術の潜在力が最大限に発揮されるのは医療分野だと考えている。

同大学生体工学部教授の Scott Hollister 博士は、心臓外科医らと共に3Dプリンターを使用して気管を支えるサポート材を製作した。この人工器具は Garrett ちゃんが自力呼吸可能になるまでの間、彼の脆弱な気管を支える役目を果たす。

「分解吸収されるまで約3年かかります。その時には彼の気管も成長して、正常な構造を持った新しい気管へと再形成されます」と、Garrett ちゃんの治療を担当する Hollister 博士。

同様の3Dプリント技術を援用した執刀例は、 Garrett ちゃんが世界で2番目となる。過去 10年間の3Dプリント技術を用いた治療例には、骨や体内器官、動脈などの再建といった実績があるが、すべが上首尾に終わっているわけではない。成功例としては、英国の外科医チームが3Dプリンターで造形した3次元モデルやプレート、固定具を使用して男性患者の損傷した顔面を「復顔」した 2013年の事例や、ハーヴァード大学の研究者チームが特注3Dプリンターを使用した、皮膚細胞と血管の交錯した人工組織片の作成例などが挙げられる。また今月には、サンディエゴに本拠を置くバイオ プリンティングの Organovo Holdings が、将来的には人工肝臓として機能させることを目的とした人工組織を3Dプリントで作成したことを発表した。究極的には、3Dプリントされた人工臓器を移植用として活用する道も考えられるとしている。

トロント子ども病院のエンジニアたちは、患者の心臓のレプリカを3Dプリンターで作り、執刀医たちに手術方法を決定する際に役立ててもらっている。外科医の1人は、「全てを自分の頭の中でイメージして手術に臨むより、この3次元モデルを見ただけで、患者の心臓が今どんな状態で、自分が今オペで行なっていることはどういうことなのかが手に取るようによくわかる」と語る。これらのレプリカは通常の2D CAT( コンピュータ断層撮影術 )スキャン画像を基に、樹脂や金属、アクリル素材を使用して造形できる。

「3Dプリントという新しい技術を使って、従来では難しかった方法で患者を救うことができる。この事実に我々は大変な興奮を覚えている」と、トロント総合病院の Eric Horlick 博士は言う。

この革命的技術により、外科手術での正確性、および手術のスピードアップが図れる可能性があると医師たちは言う。Garrett ちゃんのような難病患者は無数に存在するが、「プリント」ボタン1つ押すだけで救えるようになるのかもしれない。

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2014年3月24日月曜日

3Dプリントは「持続可能な生産」を実現できるか?

シンプルな小型プリンター1台で商品ができる ―― つい最近まで、このような発想はしょせん SF 小説の話だと考えられてきた。だが、技術の急激な進歩とともに、樹脂や食品、人体器官に至るまで、あらゆるモノが 3Dプリントで生み出されるようになると、かつては思いもよらなかった突飛な発想も現実となって出現する。
製品設計および生産工程における持続可能性という点において、3Dプリンティングのもたらすプラスの衝撃は計り知れない。現時点ではこの技術は生産工程全般を刷新するほどには進化していないが、それでもプロトタイプ製造工程数と廃棄物の削減、また輸送に伴う排出物の抑制に貢献しており、業界の垣根を越えて持続可能な商習慣への扉を開くものだ。
このような方法で製品の市場投入までのプロセスが迅速に処理される結果を見て、持続可能社会の研究を専門に行なっている研究者も興奮している。雇用の増加に伴って生産性も高まるというのは歴史的事実だからだ。雇用創出により地域共同体は発展し、域内経済も軌道に乗るようになる。生産のローカライゼーション化が与える影響は大きい。それは自動車や航空業界を見ればわかる。デトロイトを見るがいい。生産拠点が国外へとシフトしたのち、かつての企業城下町がどうなったか。
3Dプリンティングの威力が遺憾なく発揮されるのが、プロトタイピングだ。3Dプリンターは、設計者が頭に思い描いた素晴らしいデザインを極めて低廉なコストで試作品へと変換する。これは、幅広い業種にとって福音だろう。たとえば人工装具。3次元データに基づき腕や足を復元する手法はプロトタイピングの工程数そのものを減らせるし、持続可能な製品設計という観点においても目覚ましい進歩だ。フォードは、それまで数か月かかっていた自動車の車体およびエンジンのプロトタイピング製造工程に3Dプリンターを導入後、試作品製造に要する時間とコストが劇的に低下したと述べている。
現行のプロトタイピング製造工程および設計プロセスは排出物および廃棄物を大量発生させ、極めて厄介だ。だからと言って製作コストをカットすべく製作拠点の海外移転を進めれば、持続可能性に対する悪影響は増大する。海外で試作品を組み立て、それを本国へと逆輸入し、最終調整を経て完成させた試作品を再び輸出するのだから。開発時間の無駄であるばかりか、貴重な化石燃料の浪費にもなる。

化石燃料から吐き出される排出物が、結果的に企業の環境保全コストを押し上げるのは理の当然だ。3Dプリンターを使えば、メーカーは輸送燃料費のかかる輸送車両に依存することなく、「その場で」試作品の製造が可能になる。デジタル設計 / 3Dプリンティングはこのような輸送関連コストをほぼ解消し、プロトタイピング工程をスリム化する。さらなる効率化が課題とはいえ、今や3Dプリンターによって造形される製品の約 20% は試作品ではなく「最終完成品」として出荷されている。出荷に要する時間も短縮され、それだけ効率化が図れるということになる。

普及の本格化した3Dプリンターは、テクノロジーと労働、輸送と生産に関するわれわれの概念を根底から一新させた。ローカライゼーションは製品・サービスなどの分野を問わず、世界中至る所で注目を集める主題になった。イタリア発祥の「スローフード運動」然り、「製造業を米国に取り戻そう」運動然り。

いずれは自動車、食品、人工器官といった「製品」が次世代3Dプリント技術によって生み出されるだろう。可能性は無限大だ。

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2014年3月23日日曜日

3Dプリントで「復元」した嘴でペンギンを救え! 

ポーランド発:ワルシャワ市立動物園( ミエイスキ動物園 )にいる1羽のペンギンが、今、ポーランドの科学者チームによる救援作戦を待っている。

このペンギンは約1か月前に仲間との争いか転落など不慮の事故が原因で、嘴の下側部分を失ってしまった。動物園によると、新しく人工の嘴を接合しない限り羽繕いや餌を食べることもできなくなり、生存が難しくなるという。

そのとき、たまたま同動物園に3Dプリンターの売り込みで訪れていた 事務用品販売会社 MTT Polska の社員 Bartek Jarkiewicz 氏は、動物園側からこの哀れなペンギンのことを聞かされた。同氏はさっそくポーランドの3Dプリンターベンダー Omni3D の科学者チームと連携して、このペンギンを救うプロジェクトを立ち上げ、この救援プロジェクトの責任者になった。

Jarkiewicz 氏らペンギン救援チームはまず死んだペンギンの嘴の3Dスキャンデータから寸法や形状といったデータを取り、生物分解性樹脂を使用して来週にも嘴の「復元」に着手する予定だが、残った部分の損傷は悪化し、接合作業は難しいという。

動物の失われた部分を3Dプリンターで「復元」するこのような試みは欧州では今回のポーランドが初めての事例で、世界的には2例目になるという。最初の事例は 2012年、米国のハゲワシで、やはり失われた嘴部分が復元されている。

[ 追記:WSJ によると、その後このペンギンの嘴は自然に生え始め、3Dプリントした人工の嘴は不要になったという ]

参照元記事1.
参照元記事2.

2014年3月22日土曜日

番外編:各方面から注目される「3Dカメラ技術」

3Dカメラ技術にはゲームや小売、不動産までカバーする潜在力がいくつも潜んでいる。ベンチャーも大手もこぞって、3Dカメラ技術に熱い視線を送っている。

マウンテンヴュー市に本拠を置く Matterport は 13日、3Dカメラ技術の商用化に向けた第一弾となる3Dカメラ「Matterport Pro 3D Camera」をリリースした。価格は 4,500米ドル。

同社は有料クラウドサービスも提供しており、撮影した2D・3Dデータを同サービスに転送するだけで3次元データに自動変換され、Webブラウザさえあれば3次元空間モデルの閲覧および共有ができる。

Matterport の3Dカメラがハイエンド志向・プロユース向けなのに対し、現在主流なのはスマートフォンやタブレットなどの携帯端末に埋め込むタイプ。たとえば Google が先月に正式発表した「Project Tango」では、内蔵カメラでスキャンしたデータに基づいて3Dマップを同時生成する機能を搭載したプロトタイプ機が開発中だ。また昨年 11月には Apple Inc. がイスラエルのベンチャー PrimeSense Ltd. を買収している。PrimeSense は3D深度センサーおよび3Dカメラの開発で知られる。また、別のイスラエル企業 Mantis Vision は Sumsung および Flextronics から資金提供を受けている。同じく3Dカメラ開発ベンチャー Lynx LaboratoriesDotProduct3D の2社も近日中に彼らの3Dカメラの先行予約を受け付ける予定だという。

「これはまだ第1波。第2、第3の波がやってくる」と述べるのは、Matterport の競合スタートアップのひとつ Paracosm( フロリダ州 )の CEO Amir Rubin 氏。同社は複数のカメラから撮影された2次元画像データから3次元画像を生成するソフトウェアを開発している。同氏は3Dイメージング技術全般について、「まだ揺籃期にある」と評する。2010年に Microsoft が「Kinect」を発売して以来、同技術の市場が本格的に動き始めた。

Matterport にとっては、ハードウェアのカメラ製造よりも今後はソフトウェア開発が重要だという。同社 CEO の Bill Brown 氏は次のように述べている。「自分たちはソフトウェア会社だと考えている。カメラを作ったのも、そもそも自分たちの求めるデバイスがなかったため。そのうち3D撮影機能を持った端末を売りにする企業なんて珍しくなくなる」。

Matterport はシリコンバレーの有名なベンチャーキャピタル「Y Combinator」から投資を受けた成長株で、他にも Lux Capital、Felicis Ventures、Greylock Partners、Qualcomm Ventures、Rothenberg Ventures、Red Swan Ventures および Navitas Capitalからも資金提供を受けている。これらの投資家から提供された資金の総額は現時点で約 1,000万ドルに上る。

「画像の3次元化について、デジタル アルゴリズム化を完成させることに注力してきた。今やっと、写真画像と同等のクオリティを目指せるスタート地点に立ったばかりだ」と、Brown CEO。現在、3次元空間モデル内のオブジェクトをユーザーが自由に操作できるようなアプリケーション開発に取り組んでいるという。これが実現すれば、たとえば新しい家具を購入する際、3次元空間モデル内に収まるかどうかを検討した上で即時購入することも可能になるという。

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2014年3月17日月曜日

3Dプリントがやってきた ―― ジャマイカの場合

3Dプリンティング技術は今や食べ物から人体器官、さらには武器までとその可能性を拡大しつつある。そして、この大きな波はカリブ海の島国ジャマイカにも到達した。

3Dプリンティング技術じたい、取り立てて目新しいというわけではない。1984年、Charles 'Chuck' Hull 氏がデジタルデータから現実の3次元オブジェクトを作るために開発して以来、改良が重ねられ、プリンターの価格も現在では廉価モデルなら 1,200 米ドル程度にまで低下している。

首都キングストンに本拠を置く印刷会社 Pear Tree Press LTD. は昨年、従来のオフセット印刷事業からデジタル印刷へと経営の軸足を移し、その一環として市販の小型デスクトップ型3Dプリンターを1台、試験的に導入した。

「重要なのは、たとえ苦しくても変化の波を受け入れること。波に呑まれてはダメだ。波に乗らなければ」と、同社代表の Adam Hyde 氏。先月下旬、Pear Tree Press はジャマイカ国内の3Dプリンティング需要を掘り起こす目的で3Dプリントのデモを開催した。Hyde 氏によればデモを見に来た顧客からは「上々の手応え」を得たというが、単発の試作注文以外の正規の新規受注はまだないという。

一方、西インド諸島大学付属モナ地球情報学研究所( MGI )もまた、Pear Tree Press と同様に、この3Dプリンティングという変革の波に乗ろうと試みている。「現在、デスクトップ型3Dプリンター導入に向けた検討を本格化させているところだ」と、同研究所の企画開発コンサルタントの Michael Evelyn 氏は言う。「新型機種はどれも小型化が進み、価格も下落している。だが、商用モデルとなるとまだ恐ろしく導入コストが高い」。

MGI では3次元地形図と見取り図、および3次元建築モデルと市街モデル制作など、3Dプリンティングの商用需要はあると見ているが、現状ではまだ低いことを認めている。「昨年の受注はわずか1件のみだった」と Evelyn 氏

前出の Pear Tree Press でも事情は似たり寄ったりだ。だが Hyde 氏は、3Dプリンティングに対する顧客の関心が高まれば、将来的には携帯端末カバーや結婚式の贈答品の生産などの需要があると踏んでいる。

とはいえ現時点では、Evelyn 氏も言うように、小型デスクトップ3Dプリンターで提供できるものは「せいぜいカップやボウルなどの小物に、そしてまあ銃器が関の山。長期的に見て無難な線は、商用3Dプリント事業しかない」。

大規模プロジェクトの場合、上位機種の商用3Dプリンターならその場で製造可能なことから、海外へ外注に出すコストや輸送にかかるリスクが軽減できるなど多大なメリットがある。だが、ジャマイカ国内の3Dプリント需要を見る限り、商用3Dプリントの事業展開はまだ時期尚早だと Evelyn 氏。

現在、ジャマイカでは3Dプリンターに関する法的規制は一切ない。「米国でさえ、すでに殺傷力のある銃器が3Dプリンターによって国内で製造されているのに、何の規制もない。今のところ当局は、3Dプリント製品および3Dプリントサービスの需要が今後どこまで拡大するか、当面静観する方針だろう」。

3Dプリンター生みの親で現 3D Systems CTO の Hull 氏は、来たる5月 21日、「米国発明家殿堂」入りを果たす。

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2014年3月16日日曜日

3Dプリントは Amazon のビジネスモデルをも変えるか? 

Amazon.com は昨年、3Dプリンターストアをオープンさせたが、今月初め、パイロットプログラムの一環として、提携5社とともに3Dプリンターで製造した製品を専門に販売するスペースを試験的に開設した。これは eコマース業界としては初の試みになる。

だが、Amazon の真の狙いはそれだけにとどまらないかもしれない。

3Dプリンティングは小売事業において需要サイドのみならず、供給サイドをも変えつつある。デジタル化する世界においては欲しい商品がない場合にどうするかという概念に変化がもたらされつつあり、同時に増え続ける一方の在庫スペースをどう確保するかという点においても変化はもたらされつつある。

現在のネット通販型小売モデルでは、Amazon のような大規模小売業者は膨大な商品ストックを物流センターに保管し、顧客の注文を受注した時点でできる限り早く、そして価格を抑えて発送する。小売店舗がない分、浮いた経費を物流センターの効率的運営に振り向け、商品販売の利ざやを増やすことができる。

では3Dプリンティング技術を使った小売モデルではどうか。在庫で満たした物流ネットワークを全国規模で展開することも、また「 Drone 」と呼ばれる自前の自動操縦無人ヘリコプターに投資することもなく、注文を受けた商品をただちに顧客に提供できるようになるかもしれない ―― いずれ Amazon は顧客に目的の商品のデザインファイルのみをダウンロードしてもらい、それを顧客の自宅で3Dプリントアウトしてもらう、という販売方法を採用することは、理屈の上ではできない話ではない。そうした顧客は、Amazon の3Dプリンターストアでプリンター本体やフィラメントも購入するようになるだろう。

Amazon はただ商品のデザインファイルをダウンロード販売するだけ、あとは顧客が3Dプリンターで出力して手に入れる、というビジネスモデルは、たしかに興味深いが、現在市販されている廉価な3Dプリンタークラスで出力可能な製品は、せいぜいプラスチック樹脂製の玩具や小物が関の山で、日用品すべてがこの方式で売れるようになるのはずっと先の話だ( 現状では3Dデータファイル作成には高度な専門知識が必要で、3Dプリンターの操作にも相当量の忍耐とスキルが要求される )。

そうは言っても、今日の3Dプリンティング技術の使われ方にはきわめて独創的なものも出現し始めている ―― 航空機や自動車の製造にとどまらず、住宅にまで応用範囲は広がっている。人体の人工器官まで3Dプリントアウトしているくらいだ。これらを考えると、将来 Amazon が有機物であれ無機物であれ、全商品をデザインファイルとしてオンライン販売するという可能性は高いのではないか。かつてインターネットならではのスケールメリットを活かして顧客の買い物の仕方を一変させたように、3Dプリンティング技術を使って買い物のあり方にさらなる変革をもたらすことは可能だろう。

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2014年3月10日月曜日

オランダ発 住宅まるごと3Dプリント

オランダの建築設計事務所 DUS Architects は、住宅1軒まるごと3Dプリントアウトするという実験に取り組んでいる。

DUS Architects は首都アムステルダム北部の運河に面した空き地でこの建築実証実験を行なっており、作業の模様は有料で一般にも公開され、建築作業の一部にその収入が充てられる( 1人 3.45米ドル )。

同事務所によれば、この実験のため、オランダの3Dプリンターメーカー Ultimaker にデスクトップ型3Dプリンターを巨大化したような高さ6m もある住宅建造専用プリンター「KamerMaker( オランダ語でルーム・メイカーの意 )」を特注、運搬用コンテナに入れて現場まで搬入した。このプリンターで建築するのは現地で「カナルハウス」と呼ばれる住宅で、現場でプリントアウトしながら組み立てる。すべて計画通りに進めば3年以内にカナルハウスは完成するという。

これが、「世界初の3Dプリントアウトされた住宅」になると言えるかどうかはまだわからない。「KamerMaker」が1回で出力できる最大寸法は 2.2x2.2x3.5 m で、同事務所によれば、各部屋は個別にプリントアウトされ、それぞれ安全検査を経て組み立てられるという。「各部屋は数種類のパーツからなり、大きなレゴブロックのように連結して組み立てられる」と事務所側は述べている。

この3Dプリントされた巨大な LEGO ブロック状の建材は内部が中空で、ハニカム状の骨組構造の支持体を持ち、壁には配線と配管用の空間が用意されている。

ただしここで、3Dプリンターの将来について根本的な疑問が生じる。これほど巨大な物体 ―― 住宅用3Dプリンター ―― を作り、それを使用してもう1つの巨大なモノを作るというのは果たして本当に効率的な工法なのだろうか? 

現在、高さ3m の建材ブロック1つプリントするのに1週間はかかる。同事務所代表者によれば、2時間以内の出力を目指すという。

また、同様のブロックの出力において、数 cm 分高すぎるという問題も発生している。建材として使用しているのは「Macromelt」と呼ばれる菜種油から製造した樹脂ペレットベースのもので、今のところ「KamerMaker」プリンターはこの素材を常時、正確に均等に出力できていない。そのため内部のハニカム構造部分も一部で不揃いになったりしている。DUS Architecs 側は、現在はまだ試験段階であり、実際に建築に使用する時にはこれらの問題はすべて解決済みで強度的にも問題ないと説明する。「Macromelt」については、万一、出力に失敗しても簡単に粉砕して再利用できるとしている。

計画では、正面部分の高さ15m、幅6m、奥行き6m、13の部屋を持つ切妻屋根のカナルハウスを建てるとし、最初の部屋は今年の夏ごろをめどに完成させたいとしている。

参照元記事1.
参照元記事2.

2014年3月8日土曜日

現役工科大学院生の開発した3Dプリンター、「Lathon」

ジョージア工科大学の航空宇宙システム デザイン研究所( ASDL )で研究をしている大学院生 Nohtal Partansky 氏は、従来の市販3Dプリンターの欠点を改善した「Lathon 3D Printer」をゼロから開発し、Kickstarter 上で公開している。

Partansky 氏は市販されているプリンターを使い始めた当初より、使い勝手の悪さやイライラさせられる点に気づき、どうにかしたいと考えるようになったという。まったく新しい3Dプリンターを新規開発することを思い立ったのは大学3年の時だったが、ようやく目に見える形になった。

このプリンターは、シンプルな操作性が特徴だ。同氏によれば、従来製品に求められていたユーザー側の操作を可能な限り排除したという。造形後の面倒なサポート材除去作業も、溶解性サポート材採用により不要、としている。

製品寸法も大きく( 25x16x25 インチ )、このため従来の市販プリンターでは何度かの工程に振り分けて行なっていたような大型造形物( 最大造形サイズ12x9x8 インチ )も1回の工程で済む。また最大8種類のフィラメント素材が使用可能で、2種類の色 / 素材の同時出力およびカーボンファイバー造形に対応し、異なる素材同士を重ねて造形することも可能だという。Partansky 氏の試作した 20面サイコロでは、色つき素材でサイコロ面を造形し、数字の色のみ白に変えている。造形作業中に発生する微粒子も活性炭素フィルターで除去する防塵機能も備え、ダストカバー付きなので造形中の温度変化も受けにくく、高品質な造形を可能にしている。

部品1つとってもすべて何もないところから手作りして組み上げたため、「すべてが苦労の連続」だったと Partansky 氏。

目下、この「Lathon( Nohtal を逆から読んだもの )」3Dプリンターでバッテリー充電可能な照明器具を作りたいと Partansky 氏は言う。そして、これまで試作した中では最大級のピラミッドの製作も計画している。完成には 20~30時間はかかるだろうという。

「3Dプリンターの非常に素晴らしい点は、作れないものがないツールだということ。何だって製作可能なことだ」。

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2014年3月1日土曜日

重い先天性心臓疾患を持つ赤ちゃんを救った3Dプリントの心臓モデル

米国ケンタッキー州ルイヴィルのコセア子ども病院はこのほど、3Dプリンターで出力した3次元心臓モデルを使い、重い先天性心臓疾患を持つミャンマー移民の男の赤ちゃんの生命を救った。

ルイヴィル大学の小児外科医 Erie Austin 氏ら執刀医チームによると、生後 14か月の Roland Lian Cung Bawi ちゃんは、生まれつき心臓大動脈や肺動脈の奇形および心室に穴が開くなど複数の疾患を持って生まれた。Austin 氏は今回の手術に当たり、2次元 CTスキャンデータのみに基づき手術方法を決定する従来のやり方では困難だと判断、同大学 J. B. スピード記念工学部( J.B. Speed School of Engineering )に支援を求め、同工学部の所有する MakerBot 製3Dプリンターを使用して Bawl ちゃんの3次元心臓モデルを製作した。手術は 2月10日に行われ、成功した。

同学部付属のラピッドプロトタイピング研究所長 Tim Gornet 氏によれば、同研究所ではこれ以前にも外科手術用立体モデル製作に3Dプリンターが活用されてきたとし、外科医と協働して腫瘍や脊髄欠損などの手術用に3次元モデルを提供してきたという。今回のように、3Dプリント出力された3次元モデルを使用した心臓外科手術の成功例としては、ケンタッキー州初だという。

今回の心臓手術では2次元 CT画像データから、実際の倍の大きさに拡大した心臓の3次元モデルを製作し、これにより執刀医チームは比較的短時間で、最小限の切開にとどめることが可能になった。Roland ちゃんは術後の回復もよく、完全回復するだろうと Austin 医師は語った。

もちろん、現時点ではまだ3Dプリンティングは医師が直接関与する検査の完全な代用にはならず、患者体内の患部が目視で確認できる程度のものだ。医療現場における画像技術はここ数十年で飛躍的発展を遂げたものの、とりわけ脳内部などは組織のモデル作成が難しいとされる。だが、実物より大きな3次元モデルを安価に短時間で製作できれば、高額かつ不要な試験開腹の回数も減少し、患者は短時間でダメージから回復可能になるかもしれない。

通常、開腹手術は腹腔鏡手術と比べて時間がかかり、患者への負担も大きい。3Dプリントアウトした立体モデルの精度がさらに向上すれば、このような負担の大きな侵襲的手術の必要も減り、3Dプリンティング技術開発にかかるコストや困難さも元が取れる時が来るだろう。