2016年2月6日土曜日

大脳の3Dプリントゲルモデルで「皺」発達プロセスが明らかに

米国マサチューセッツ州発:ハーバード大学を始めとする米国、フィンランド、フランスの国際研究者チームはこのほど、人間の大脳皮質が発達段階で「折り畳まれる」現象が生物学的要因ではなく物理学的要因に起因する可能性が高いとする論文を学術誌 Nature Physics 電子版で発表した。

同チームのハーバード大学応用数学および発達生物学教授でワイス生物意匠工学研究所の Lakshminarayanan Mahadevan 氏によると、人間の大脳皮質の折り畳み[ gyrification と呼ばれ、それによって生成された大脳皮質の皺を脳回という ]がなぜ起こるのかについて、生物学的要因で発生するとした説と物理的要因により発生するとした説とが長年対立していたが、倫理的な問題等で実際の人間の大脳で実験することはこれまで困難だったという。

今回、Mahadevan 氏らのチームが採用したのは、妊娠 22 週目の胎児の大脳の MRI 画像を基に軟質ゲル製レプリカを3Dプリンターで作成する方法。この3次元モデルは溶媒に浸すとそれぞれ異なる膨張度を持つ軟質ゲルを使用し、大脳の白質と灰白質( 大脳皮質 )とを再現している。作成当初は実際の胎児の脳と同様、皺が何もない球体だったが、研究者チームによると溶媒に浸された3次元ゲルモデルは数分以内に外側の灰白質を模したゲル層の膨張が始まり、下の白質を模したゲル層からの圧縮力により、実際の大脳表面とよく似た皺が生成されたという。その結果、大脳皮質の折り畳み現象は「機械的不安定さ」が主要因であると結論づけている。

同時に研究者チームは胎児の大脳の発達初期段階を再現した数値モデルシミュレーションも作成し、この数値モデルでも実験を裏付ける結果が出たという。

Mahadevan 氏は次のように述べている。「最終的には全てはつながっている。この折り畳み現象は分子生物学的プロセスでもあり、それが細胞を動かし、細胞を分割させ、形を変えたり細胞数を変化させたりする」。同氏の次の目標は、このような大脳皮質の大きな構造変化と、分子レベルでも一定の役割を果たしていると見られる折り畳み現象との関連の解明だ。

人間の大脳皮質に皺が生成されるのは妊娠 20 週目以降に始まり、皺の生成は1歳半頃まで続く。研究者チームはこの実験結果はあくまで折り畳み現象の発生段階における標準的な大脳構造の極めて単純化された動作を再現したに過ぎないとしながらも、大脳皮質の持つ「物理的な発達過程」が証明されたことで、アルツハイマー病や自閉症、統合失調症といった神経障害の診断や治療にも影響を与える可能性があるとしている。



参照元記事1
参照元記事2