2016年4月4日月曜日

ヘンリー8世の印刷聖書を3D X線イメージングによって解析

英国発:英国王ヘンリー8世[ 在位:1509 - 1547 ]が印刷させたとされる英国最古の出版聖書の余白に書かれ、その存在がこれまでまったく知られていなかった「書き込み」を最新の3D X線イメージング技術を使用して解析したところ、英国における宗教改革は急進的ではなく、緩慢なプロセスを辿っていたとする説を裏付ける内容だったことがロンドン大学クイーン・メアリー( QMUL )の調査によって明らかとなった。

調査を行った同大学歴史科教授 Eyal Poleg 博士によると、この印刷聖書は 1535 年、ヘンリー8世が印刷させた聖書の現存する7冊のうちの1つ。同博士がこの聖書を所蔵するランベス宮図書館で調査したところ、ページの余白部分に別の紙が貼り付けられているのを発見した。そこで同大学歯学部3D X線イメージング技術( X線マイクロ CT )の専門家 Graham Davis 氏に協力を仰ぎ、密着している紙の間に光シート透過 / 光シートなしでそれぞれ長時間露光して撮影した。光シート付きでは印刷本文と未知の書き込みの両方が、光シートなしでは印刷本文のみが画像として残る。

撮影後、各画像は Davis 氏が開発したデジタルイメージング処理プログラムにより、印刷本文のみ消去されて手書きの書き込みのみが抽出された。

その結果、書き込みにはトマス・クロムウェルが作らせた最初の欽定訳聖書(「大聖書」、1539 )の転写と朗読箇所のタイミングに関する情報が含まれていた。また最終ページの書き込みが、カレー市の William Cheffyn と ロンドン市の James Elys なる「スリ師」との間で 20 シリングの約束で「取り引き」した、という内容であることも判明した。Poleg 博士によると、Elys 氏なるスリ師は 1552 年 7 月に絞首刑にされたという。この事から博士は、「ランベス聖書」が不法に取り引きされたのはどんなに遅くとも 1552 年以降ではあり得ないとしている。

Poleg 博士は次のように述べる。「この印刷聖書はヘンリー8世による一連の宗教改革がどのような過程を辿ったかを証言する極めてユニークな存在だ。カトリック教会による破門から国教会成立へと大きく国政を転換する最初の数年に当たる 1535 年に同王の命によって印刷され、しかも同王直筆の序文付きだ。この印刷聖書は従来のローマカトリック式ラテン語典礼と、自国語による簡素化された新典礼とが混在していた 1539 - 1549 年の移行期の状況を知る手がかりとなる。修道院解散法成立後、ラテン語訳聖書は廃止され、修道院付属図書館も解体され、ランベス聖書は俗人の手に渡った。かつては英国王室のお墨付きを得た書物だったものが、あっけなく盗みの記録にまで凋落したことになる」。

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